背景

2019年の9月に登場したランサムウェアMedusaLockerは、世界中のWindowsマシンに感染し、機密データを暗号化しています。さまざまな業界でMedusaLockerの攻撃が報告されており、その中でもヘルスケア業界ではCOVID-19パンデミック時にランサムウェアの集中攻撃を受け、甚大な被害を受けています。

侵害したマシン上のファイルを確実に暗号化できるようにするために、MedusaLockerは攻撃を行う前にセーフモードでマシンを再起動します。この方法が使用されるのは、コンピューターをセーフモードで起動することでセキュリティツールを迂回できるためです。

MedusaLockerが実行可能ファイルの暗号化を避けるのは、ほとんどの場合、標的にしたシステムが身代金の支払いができなくなるのを防ぐためです。さらに危険なことに、MedusaLockerはAESとRSA-2048を組み合わせて使用しているため、総当たり的に暗号化を行うのは実際には不可能です。

最近では、MedusaLockerの亜種であるAKOに恐喝の要素が加わり、盗んだファイルを公開するという脅迫があったとのことです。今年初めのサイバーリーズンの報告書でも述べられているように、この脅迫や恐喝の手口はランサムウェア市場で人気を集め始めています。

MedusaLockerのランサムノートの一部に、データ漏洩の恐喝の脅威が発見されていますが、サイバーリ⊸ズンの今回の調査時点では、MedusaLockerのランサムウェアによって実際に情報が流出したという証拠は確認されていません。


サイバーリーズンが MedusaLockerランサムウェアをブロック

注目すべき点

  1. 深刻度が高い:サイバーリーズンのNocturnusチームでは、攻撃の破壊的な可能性を考慮して、このランサムウェアの脅威レベルを「高」と評価しています。
  2. マップされたドライブの暗号化: MedusaLockerはネットワーク上の隣接コンピューターの共有ネットワークドライブを暗号化します。
  3. 恐喝の試み:新しいMedusaLockerの亜種が残したランサムノートには、支払いが行われない場合、盗んだデータを公開するという脅迫が書き込まれています。
  4. 検出と防止:サイバーリーズンのプラットフォームは、MedusaLockerランサムウェアを完全に検出し、実行を阻止します。

攻撃の詳細

MedusaLockerによる感染の多くは、通常、「バッチ」ファイルと「txt」ファイルに保存されたpowershellスクリプトから開始されます。

  • qzy.bat
  • qzy.txt

バッチファイルの内容

攻撃者が配信するqzy.batファイルは、Windowsサービスを介して永続性を獲得するように設計されています。このサービスは以下のタスクを実行します。

  1. ランサムウェアのペイロードを含むPowershellスクリプト(C:WIndows\SysWOW6\qzy.txtに存在)を実行します。
  2. セーフモードでサービスを実行できるようにレジストリキーを改変します
  3. 強制的にセーフモードで再起動をします。
  4. 感染したホストを再起動します。

sc create purebackup binpath= “%COMSPEC% /C start /b C:\Windows\SysWow64\WindowsPowerShell\v1.0\powershell.exe -c $km = [IO.File]::ReadAllText(‘C:\Windows\SysWOW64\qzy.txt’); IEX $km” start= auto DisplayName= “purebackup”
reg add HKLM\System\CurrentControlSet\Control\SafeBoot\Minimal\BackupLP /f
reg add HKLM\System\CurrentControlSet\Control\SafeBoot\Minimal\BackupLP /ve /d \”Service\” /f
bcdedit /set {default} safeboot minimal
shutdown /r /f /t 00 & del %0

Cybereasonの攻撃ツリーに描かれたバッチファイルの実行手順:

MedusaLockerバッチファイルの実行手順

セーフモードでコンピューターが再起動されると、作成したサービスが実行され、powershellスクリプトが実行されます。このpowershellスクリプトは、「Invoke-ReflectivePEInjection」として知られるPowerSploitスクリプトです。このスクリプトは、反射的にPowershellプロセスのメモリにMedusaLockerランサムウェアをロードします。

スクリプト内にbase64でエンコードされたMedusaLockerのバイナリ:

Powershellスクリプトのスピネット

ミューテックスの検出

MedusaLockerは、まずコンピューター内にミューテックス“{8761ABBD-7F85-42EE-B272-A76179687C63}”を持つプロセスが存在するかどうかを確認します。ミューテックスを検出すると、ランサムウェアはその実行を抑止します。

CMSTP UACの回避 / 権限の昇格

MedusaLockerは、Trickbotなどの他のマルウェアにも使われている有名なUAC回避技術を使用し、権限を昇格させてランサムウェアに管理操作を実行できるようにしています。権限の昇格では、Windowsの組み込みツールであるCMSTP.exeを利用してUACバイパスを行い、自動昇格させたCOMインターフェイスを介して悪意のあるINFから任意のコマンドを実行することが可能になります。この手口の実装はGithubで見ることができます。
https://gist.github.com/hfiref0x/196af729106b780db1c73428b5a5d68d

上記の方法とほぼ同じ実装が、当社の分析サンプルでも使用されています。


IDA内のUACバイパスコード

永続性

MedusaLockerは、次のパス内にマルウェアの実行可能ファイルのコピーを作成します。

“%AppData%\Roaming\svhost.exe” または “%AppData%\Roaming\svchostt.exe”(マルウェアの種類によって異なる)。そして、15分間隔で実行される「svhost」というスケジュールタスクで永続性を獲得します。


Cybereasonのスケジュールタスク

セキュリティ製品のバイパス

MedusaLockerは特定のプロセスとセキュリティ製品を無効化または終了させようとします。

wxServer.exe,wxServerView,sqlservr.exe,sqlmangr.exe,RAgui.exe,supervise.exe,Culture.exe,RTVscan.exe,Defwatch.exe,sqlbrowser.exe,winword.exe,QBW32.exe,QBDBMgr.exe,qbupdate.exe,QBCFMonitorService.exe,axlbridge.exe,QBIDPService.exe,httpd.exe,fdlauncher.exe,MsDtSrvr.exe,tomcat6.exe,java.exe,360se.exe,360doctor.exe,wdswfsafe.exe,fdlauncher.exe,fdhost.exe,GDscan.exe,ZhuDongFangYu.exe

さらに、以下のサービスを無効化しようとします。

wrapper,DefWatch,ccEvtMgr,ccSetMgr,SavRoam,sqlservr,sqlagent,sqladhlp,Culserver,RTVscan,sqlbrowser,SQLADHLP,QBIDPService,Intuit.QuickBooks.FCS,QBCFMonitorService,sqlwriter,msmdsrv,tomcat6,zhudongfangyu,SQLADHLP,vmware-usbarbitator64,vmware-converter,dbsrv12,dbeng8

バックアップの削除と回復の阻止

MedusaLockerは以下のようなハードコーディングされたコマンドによってバックアップを削除し、回復の試みを阻止します。


マルウェア内にハードコーディングされたコマンド

コマンド
目的

vssadmin.exe Delete Shadows /All /Quiet
Deleting all shadow copy volumes
bcdedit.exe /set {default} recoveryenabled No
Disabling Automatic Startup Repair
bcdedit.exe /set {default} bootstatuspolicy ignoreallfailures
Disabling Windows Error Recovery on startup
wbadmin DELETE SYSTEMSTATEBACKUP
Deleting backup for Windows Server
wbadmin DELETE SYSTEMSTATEBACKUP -deleteOldest
Deleting the oldest backup on Windows Server

powersehll.exeのメモリ内でのMedusaLockerの実行:

PowershellからのMedusaLockerの実行

リモートマシンのスキャンと拡散

侵入に成功すると、MedusaLockerはサブネット全体をスキャンして、他のホストや共有フォルダを検出します。ランサムウェアは、以下のレジストリキーの「EnableLinkedConnections」の値に変更を加えます。

HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\CurrentVersion\Policies\System


“EnableLinkedConnections”の値を改変

これは、同じネットワーク上に存在する他の隣接ホストに接続できるようにするためのもので、さらに、アクティブなホストを確認するためにサブネット全体にpingの送信を試みます。


アクティブなホストを見つけるためのPingスイープ

暗号化ホワイトリストフォルダー

MedusaLockerは実行可能ファイルの暗号化は避け、ホワイトリストを作成するアプローチを取り、ほとんどのフォルダ内のファイルを暗号化します。

%User Profile%\AppData
\ProgramData
\Program Files
\Program Files (x86)
\AppData
\Application Data
\intel
\nvidia
\Users\All Users
\Windows

ランサムノート

MeduzaLockerのランサムノートには「データが流出した」というメッセージが書き込まれていますが、今のところマルウェアがそのような動きをする兆候は見られません。


ランサムノート

Cybereasonによる検知と予防

Cybereasonはpowershell保護コンポーネントを使用してMedusaLockerの実行を検出し、防止することができます。


悪意のあるパワーシェルスクリプトを防止

さらに、ランサムウェア対策機能を有効にすることで、プラットフォーム内の行動検出技術によって、vssadmin.exeを使用してシャドウコピーの削除を検出することができ、これによりランサムウェアの行動に対するMalopが作成されます。


ランサムウェアの防止

MITRE ATT&CKによる分類

実行
Windows コマンドシェル
Powershell

永続性
Windows サービス
スケジュールタスク

権限の昇格
UACバイパス

防御の回避
DLLインジェクション

侵入拡大
SMB/Windows管理共有

影響
Data Encrypted for Impact

IoC(Indicators of Compromise:痕跡情報)

MEDUSALOCKER実行可能ファイル

SHA-256
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SHA1
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MEDUSALOCKERバッチ

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SHA1
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MEDUSALOCKER POWERSHELLローダー

SHA-256
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SHA1
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283714fbd1cc3e54af1049f21397a83524a2f79f

ホワイトペーパー「ランサムウェアの解読 〜最新型ランサムウェア攻撃の解説と防止策〜」

ランサムウェア攻撃は2018年前半に一旦大幅に減少したものの、その後の数年はすさまじい勢いで盛り返しています。身代金の支払いも急増しており、2019年12月には、攻撃者への身代金の平均支払い額は8万ドルを超えました。

昨今の攻撃者は、データの身代金を要求するだけでなく、データを盗んでインターネット上で売却もしています。このことは、攻撃者がランサムウェアを実行しているだけでなく、ネットワーク上にとどまってデータを抜き取り、最終的にランサムウェアを展開しているという傾向を示しています。

このホワイトペーパーでは、最新のランサムウェアがどのような特徴があり、どのように既存のセキュリティ対策を回避しているのかを解説しています。
https://www.cybereason.co.jp/product-documents/white-paper/4806/

ホワイトペーパー「ランサムウェアの解読 〜最新型ランサムウェア攻撃の解説と防止策〜」